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都議会質問記録

2015/10/02 財政委員会でオリンピック関連工事、税制等を質問

1 契約案件について

〇中村委員 それでは、初めに契約案件に関連して質問します。
 今回の契約案件には、オリンピック関連の工事があります。番号5の平成二十七年度中防揚陸施設撤去その他工事、五洋・若築建設共同企業体、二十四億五千百万円の契約です。これはオリンピックのボート会場建設のため、現在ある中央防波堤埋立処分場への荷揚げ施設を撤去するものです。応札が一者のみで、九八%という高い落札率となっていますが、この背景について、どのように認識をしてるのか、まず伺います。

〇松永契約調整担当部長 都全体の入札状況を見ますと、これまで予定価格修正方式や全体スライド条項の見直しなど、入札に参加しやすい環境の整備に向けての一連の取り組みを進めてきた結果、不調発生率などの改善など兆しが見られます。
 しかし、全般的に見ますと、技術者不足が解消しているとはいえず、また、事業者の受注意欲も回復途上でございまして、第百七十六号議案につきましては、こうした状況下における入札結果であると認識しております。

〇中村委員 新国立競技場に関するこの間の騒動で、オリンピックの陰の部分や不透明さを感じて、事のてんまつに失望感を持った都民も多かったと思います。
 新国立の費用高騰の原因は、キールアーチだけにあるかのごとく喧伝されましたが、キールアーチを含む屋根工区の鉄骨工事四百二十七億円を全て除いても二千百億円以上の工事費であり、工事全体で不透明に費用が膨張してしまいました。この問題は、JSCのコスト管理不足、競争性が働かない環境によるものなど、さまざま原因がいわれ、新国立競技場整備計画経緯検証委員会の検証報告書が発表された後、文部大臣が辞意を表明するに至りました。
 都においては、このようなことはないと思っておりますが、事後、都民に対して納得のいく説明、報告をしなければなりません。もとより公共工事には、コスト縮減と透明性の確保が求められていますが、マイナスイメージがついた今、都が行うオリンピック関連の契約も、都民やマスコミから一層厳しい視線が注がれるものと思われます。今回の案件も、オリンピック関連施設の工事契約でありますが、とりわけコスト縮減と透明性の確保という観点について十分留意することが重要と考えますが、所見を伺います。

〇松永契約調整担当部長 第百七十六号議案は、撤去工事でございまして、実施設計において撤去数量を算出し、その数量と設計単価に基づき工事費を積算し、撤去工事に必要なコストを予定価格として設定しているものでございます。
 都の発注する工事は、設計時に要求される基本的な性能と品質の確保を図りつつ、建設計画、構造計画等の各段階において、例えば、材料や施工方法等の選択について、費用対効果の観点から総合的な検討と評価を行い、コストの最適化を図っております。また、透明性の確保につきましては、都の入札契約は、電子調達システムを活用し、透明性の高い公平公正な契約手続を行っております。
 また、本件は、いわゆるWTO適用対象案件でございまして、国内外企業を平等に取り扱うため、当該工事を実施する上で必要最低限の要件のみを設定する政府調達に関する協定に従った入札契約手続を行っておりまして、より広範な事業者を対象として公平性に配慮したものとなっております。

〇中村委員 国立に関しては、検証報告書では、意思決定システムの問題、技術提案競争交渉方式採用の問題など、個々には最善を尽くしていても、システムが機能しなかったために、見直しのタイミングを幾度か失したことなど厳しい指摘がありました。
 都としても、この新国立競技場の失敗を他山の石としてしっかりと取り組んでいただくよう求めておきます。
 このボート会場の上を横切る平成二十七年度中防内五号線橋りょうほか整備工事請負契約では、既に昨年度、特例的な措置としてデザインビルド方式の採用を前提とした基本設計契約を締結しています。今回の契約案は、落札率九九・三三%ですが、実施設計と施工を一括して発注するデザインビルド方式を採用しました。
 この契約において、デザインビルドを採用した背景はどのようなものであったか、改めて確認をさせていただきます。

〇松永契約調整担当部長 第百七十五号議案は、海の森水上競技場の会場として計画された区域に位置し、揚陸施設撤去工事、海の森水上競技場整備工事といった複数の工事が重なる現場で、かつ供用中の東京港臨海道路を橋梁で立体交差させるなど、施工の難易度が高い工事でございます。また、臨海部の競技会場へのアクセスを確保するとともに、港湾物流への影響を回避するため工期内に完了することが不可欠な工事でございます。
 このような中、最終的な工事目的物の品質を確保しつつ、工期内の確実な履行完了を図るため、一点目として、設計段階から資材や人員調達の準備を行うことで、効率的な設計施工が可能となること、二点目といたしまして、現場条件を踏まえた施工上の工夫、技術について、工程管理及び品質管理計画を視野に入れつつ設計に反映することで、その後の円滑な工事が可能となること、この二つの効果が期待できる設計施工一括発注方式、いわゆるデザインビルド方式を採用いたしました。

〇中村委員 会場の施設ではありませんが、頭上を横切る橋ですから、大会時にまだ工事中というのでは困るものであり、確実な履行完了が必要です。一方では、建築士の団体からは、デザインビルド方式では、都が発注者として適切なコスト管理を行うことが難しくなるではないかと指摘もされています。
 通常、基本設計と実施設計は、同一の建築士事務所によって行われ、施工者とは別です。なぜなら、設計者が発注者の立場から施工上の課題を調整し、基本設計の意図を保ちつつ実施設計を提案し、期間を通してコストはもちろんスケジュールや品質管理を行うなどの作業が必要となるからです。それが設計者と施工者が一体というのであれば、誰が発注者の立場で管理をするのかというわけで、もっともなご指摘でもあります。
 また、デザインビルドでは、一般に、工事費が不透明になるという指摘もあります。発注者である都は、期限の厳守、品質の確保、そしてコスト管理という責任があります。物価や人件費が高騰する中では難しいですが、クリアしなければなりません。
 デザインビルドの契約上のこのような課題に対し、都として適切な対応が必要と考えますが、見解を伺います。

〇中山技術管理担当部長 デザインビルド方式は、工事を施工する上で不可欠な資材の調達及び技術者の確保や配置を設計段階から計画的に行うことなどにより、施工難易度の高い特殊な大規模の工事の施工の円滑化が期待できます。
 しかし、デザインビルド方式は、通常は分離して発注する設計と工事を一括して受注者に委ねることから、発注者として、安全管理、品質管理、工程管理、コスト管理などの確実な実施に留意する必要がございます。
 このため、都は、基本設計受託者へのアドバイザリー業務委託も活用し、事業期間を通じた監理やマネジメントを適切に行うことにより発注者の責任を果たしてまいります。また、デザインビルド方式における工事費については、事前に実施した基本設計に基づいて適切に算出するものでございます。

〇中村委員 基本設計とデザインビルドアドバイザリー業務については、実施設計、施工業者とは異なる事業者にお願いをする、この段階で施設の性能水準やリスク分担などについて詰める、実施設計や工事期間を通じて発注者の立場で支援を行ってもらう、このことによって価格高騰や工期のおくれを防ぎ、なおかつ品質を確保してもらうものとも理解します。
 今回は土木工事でのデザインビルド方式の契約でしたが、土木と建築では、設計や施工の進め方が違う面もあるといわれています。土木では、発注者が設計、施工に深くかかわりますが、建築では、発注者は設計者に比較的多くを託し、設計者が発注者の代理として行動し、建築主イコール発注者と相談しながら進めていくことが多くなるようです。特に、今後、都が整備するオリンピック・パラリンピック関連の施設では、都の発注経験が少ない施設もあり、アドバイザリーに負うところが大きいかと思われます。
 アドバイザリー契約を適切に活用し、民間の専門的立場からの支援をしっかりと受けるべきと考えますが、見解を伺います。

〇中山技術管理担当部長 デザインビルド方式は、施工難易度の高い特殊な大規模施設を対象としており、設計、施工の事業期間を通じ、民間の技術力を生かして、工事目的物の品質確保などを適切に行うことが重要でございます。
 このため、都は、発注者として、実施設計段階での基本設計意図を伝え伝達する業務や工事段階での各種検査や施工図の確認などの専門性の高い業務について監督員の監督業務を支援するため、基本設計受託者にアドバイザリー業務として委託いたします。
 このアドバイザリー業務委託によりまして、都の技術職員を中心に受託者を活用して、設計や施工の進捗状況を十分に把握しながら事業期間を通じた監理やマネジメントを行うことにより、デザインビルド方式の確実な履行を図ってまいります。

〇中村委員 民間の専門家については、単に補助的なものというよりも専門性を最大限に発揮していただけるような位置づけがぜひとも必要と考えます。
 特に、オリンピック案件は、限られた工期での特殊性の高い工事、建築コストの上昇など、置かれた状況は、都も新国立競技場の場合も同じです。新国立競技場では、予算の上限額に曖昧さを残したまま再三の試算が行われました。当初見込んだ価格を超えた場合には、速やかにスペックの見直しなどの意思決定が必要だったと思われますが、これがおくれにおくれたことから国民の間に批判が高まり、白紙撤回に追い込まれたと思います。
 そこで次に、上限価格の設定について伺います。
 国立競技場の整備では、デザインビルド方式を採用し、総工費などの条件を盛り込んだ契約にするとされています。上限価格の設定は、本格的な設計作業の中で十分な価格交渉を行わなかった結果、費用が高騰してしまった前回の轍を踏まないために行われるものと思われます。しかし、公費の大幅な増加が避けられる反面、機能や品質などの面をしっかりと詰めておかないと、国立競技場として本当にふさわしいものができないというおそれもあると指摘もされています。
 都が整備するオリンピック・パラリンピックの競技施設整備契約において、品質を担保した上で上限価格を設定するなど、事後、費用が膨らむことのないようにすることも必要だと考えますが、都の見解を伺います。

〇松永契約調整担当部長 都が行うデザインビルド方式は、基本設計完了後、施設の整備水準や基本となる仕様及び設計、施工条件を明確にした上で、不確定な要素に係るリスク分担の考え方、発注者、基本設計者、施工者の役割分担を確定することによりまして、実勢を反映した実施設計費及び工事費を算出して発注するものでございます。発注に際しましては、この費用を予定価格として設定し、入札に付していくものでございます。

〇中村委員 今回の契約で撤去した施設にかわる新たな揚陸施設の設置工事も当然必要です。これも、ボート会場整備にかかわる費用となります。また、今後多くのオリンピック関連工事が行われます。オリンピック関連の競技施設は、都として多くの発注経験のあるものではなく、中には初めてのものもあると思いますが、ホストシティーとして大会成功に責任があるのはもちろんのこと、その契約についても発注者としての責任があります。
 大会を開催する以上、費用としてかかるものがかかるのは当然ですが、後世に禍根を残さないよう、コスト管理がしっかりと行われるよう、財務当局として目を光らせていただきたい旨、重ねて申し上げます。

2 土地信託の変更について

〇中村委員 次に、土地信託の変更について質問します。
 今回、新宿モノリスの信託契約の変更が提案されました。昭和六十二年から信託が始まり、平成二十二年に議会の議決を経て五年間延長されました。間もなくその延長期間が終わるための再延長というものです。
 都の信託物件は、この新宿モノリスに始まり、六月の委員会で私も質問しましたが、コスモス青山など四つの物件が五年延長となりました。今回の新宿モノリスの延長により、二順目ということになります。
 そこでまず、モノリスに関して信託開始から今に至るまで、当初見込んだ配当と実際の都の配当、その差が生じた理由を確認したいと思います。また、前回信託期間を延長したこの五年間に限ってはどうだったのか、あわせて伺います。

〇山根利活用調整担当部長 信託配当につきましては、当初の予想配当は二千四百十六億円でございました。しかし、バブル経済の崩壊により賃料相場が大きく下落し、テナント賃料収入が予想より大幅に下落したことが最大の要因となりまして、約二十年間の信託配当の合計額は約五百四十七億円となっております。信託期間延長後の信託配当の歳入額は、平成二十四年度、十四億五千二百万円、平成二十五年度、十三億八千万円であり、ほぼ各年度の事業計画どおりとなっております。

〇中村委員 社会状況が大きく変わったということはあるとはいえ、当初見込みよりも大きく収入が減っています。改めてこの新宿モノリスに関して、これまでの二十五年間について検証、総括をしていると思います。その検証、総括の結果を伺います。

〇山根利活用調整担当部長 検証、総括につきましては、不動産鑑定士、市場調査会社、建築士など専門家の意見を聞きながら実施いたしました。
 その内容といたしましては、建物、設備はリニューアル工事等を適宜実施して良好であること、賃料設定は、おおむね市場相場を維持していること、延長した五年間を含め、入居率はおおむね九〇%を維持し、直近では約九九%であること、借入金は平成二十一年度に完済していることなどから、引き続き健全な資産運用が可能と専門家は評価しておりまして、これまで安定した信託運営ができていると認識をしております。

〇中村委員 六月のコスモス青山のときにも述べましたが、平成二十二年三月の予算特別委員会における前回の新宿モノリスの土地信託の期間延長に関する議論の際、当時の財務局長は、専門家チームを発足させて総括、評価をし、しっかりとした出口戦略をつくると答弁されておりました。
 あれから五年以上経過をしたわけですが、延長以外に考えられた出口策はどのようなものだったのでしょうか。少なくとも、原則どおり契約が切れた場合の対応と延長の場合の検討はされたはずですが、いかがでしょうか。また、五年後にどうするのかの見込みは立っているのでしょうか、伺います。

〇山根利活用調整担当部長 今回、土地信託契約の満了を迎えるに当たり、延長のほかには、土地、建物を売却することや土地信託を終了し、都が直接土地、建物を所有することを検討いたしました。
 まず、売却についてでございますが、都心の一等地に立地し、都庁に近接する極めて貴重な都有地であり、直ちに売却することは適切ではないと判断いたしました。
 また、都が直接所有することになった場合は、土地、建物だけではなく、テナントとの賃貸借契約も都が承継することになるため、賃料交渉を伴うテナント募集や敷金の預かり、修繕積立金の資金管理等、直営で行うには課題が多いものでございます。
 一方、土地信託を延長した場合は、引き続き健全な資産運用が可能であり、また、不動産市況等の変化にも柔軟に対応できるものでございます。
 そのため、今回、土地信託を五年間延長することとし、五年後に改めて社会経済状況の変化や都の行政需要を踏まえて検証することが適切と判断をしたものでございます。

〇中村委員 先ほども述べましたが、都の信託物件で二回目の延長というのは初めてになりますが、結論は、他の一回目の物件同様五年間の延長です。先の見通しもなく五年間の延長を繰り返すだけになってはいけないと思いますし、また、いつかは必ず建物の老朽化とともに大規模修繕や処分する必要も出てくるときは来ます。長期的に見てどのタイミングで処分するか見定めて今回の延長ならいいのですが、どういうような状況なのでしょうか、都の見解を伺います。

〇山根利活用調整担当部長 今回の信託期間の延長に際しましては、二十五年の信託運営の状況を踏まえました、専門家による十年間を見据えた長期の収支予測を行っております。
 その結果、安定した配当及び将来の支出に備えた積立金を継続して確保することが可能であると。すなわち、長期的に安定した信託運営が可能との評価を得ております。
 しかし、一方で、将来的には社会経済状況や都の行政需要の変化の可能性もございますので、一定期間ごとに改めて検証することが適切であると判断いたしまして、五年後に土地信託以外の具体策も含めて改めて検証することとしたものでございます。

〇中村委員 いろいろと専門家等を含めて検証もされたということだと思います。今回の議案に関しては五年の延長ということですが、また五年後にいろいろなことを考えていくということですけれども、五年たったところで検証を始めるわけではないわけでしょうから、これから、この延長がされた以降ですね、また、検討もさせていただき、社会状況の変化を見据えながら考えていっていただきたいということを思います。
 
3 「共存共栄による日本全体の発展を目指して」について

〇中村委員 それでは、報告事項について、地方税財政に関する東京都の主張として発表された共存共栄による日本全体の発展を目指してについて質問をします。
 そもそもこの不合理な偏在是正措置は、福田政権のもとで地方間の税源偏在を是正するという名目で暫定措置として導入されたものです。民主党政権時には、自民党、公明党とのいわゆる三党合意により社会保障抜本法改正法が成立し、その中で、地方法人特別税は抜本的に見直すとの記載がなされ、廃止に向けた方向性が打ち出されました。
 ところが、消費税の増税がなされた現在に至っても、いまだに廃止されないばかりか、増税により、都には需要を上回る増収が生じるという理由をもって、新たに法人住民税の国税化が行われています。この措置は、東京都だけが減収を迫られるだけではなくて、私の地元である三鷹市や、また、武蔵野市といった都内十市、そして二十三区を初め、全国で八十に上る交付税不交付団体にも減収を迫るものであり、到底、受け入れられるものではありません。
 都は、他の道府県の賛同も得ていくことはもちろんですが、都内自治体、とりわけ不交付団体からの意見にも謙虚に耳を傾け、その主張も加えることで、文字どおり東京都一丸となって国に主張していくべきと考えます。
 今回発表された反論書では、こうした偏在是正措置が都を初めとした不交付団体ばかりか地方全体にもメリットがないとの主張がなされていますが、具体的な説明を求めます。

〇岩瀬主計部長 真の地方自治は、自治体がみずからの権限とそれに見合う財源により、主体的に行財政運営を行うことで初めて実現できるものであり、そのためには、自主性の高い地方財源を拡充していくことが必要でございます。不合理な偏在是正措置は、地方の貴重な自主財源を国税化し、財政自主権を弱めるものにほかならず、地方分権の理念に大きく逆行いたします。
 さらに、地域経済の活性化等により、頑張って税収を伸ばした自治体ほど多くの税収を奪われるため、自治体のインセンティブを阻害することとなり、地方創生の理念とも逆行するものでございます。
 こうしたことから、国の不合理な措置は、都や他の地方交付税不交付団体だけでなく、地方全体にとってもメリットがない仕組みであると考えてございます。

〇中村委員 偏在是正措置は、地方分権の観点からも政府が旗を振っている地方創生の観点からも極めて問題の多い制度であるということです。政府が掲げる地方創生において、大都市は国際社会での競争に打ち勝ち、日本の経済を牽引すると位置づけられていますが、一方では、都の活力をそぐような措置をするといったこと自体、現在の政府が地方自治体をいかに信用せず、軽んじているかという証拠です。
 少子高齢化や人口減少といった問題に対処するためには、思い切った地方分権が必要であり、そういったことを含めて国に訴えていくべきです。これまでも取り組まれてこられたと思いますが、知事を先頭に、より一層取り組まれることを求めます。
 次に、不合理な偏在是正措置と並んで今回不合理な税制改正ということで、企業版ふるさと納税が取り上げられています。現在、国において、平成二十八年度税制改正での導入を目指して検討が進められているということです。
 一方で、舛添知事が述べているとおり、この税制には、企業にとってふるさととはどこなのか、地方間で寄附金獲得に向けた競争が過熱する可能性があるといった問題があります。そして何よりも、東京都や特別区、財政力が高い自治体などへの寄附は対象外とされるといったあからさまな税源移転の発想があることは問題です。
 そもそも企業の寄附金は、現在でも全額損金算入されるという優遇措置がありますが、もちろんそれは税源の偏在是正といったことを目的としたものではないはずです。
 そこで、そもそもの寄附金優遇税制がどのような趣旨で制度化されているのか、今回の企業版ふるさと納税が制度本来の趣旨からどのように問題があるのか伺います。あわせて、問題について国に強く申し入れるべきと考えますが、見解を伺います。

〇加藤主税局税制部長 一般に企業が行う寄附につきましては、法人税法において所得計算上、一定額を限度として損金算入されることとなっております。一方、国や地方自治体等に対して行う寄附については、公益的な観点から全額が損金算入され、これに税率を乗じた額が軽減されます。
 いわゆる企業版ふるさと納税といわれているものにつきましては、内閣府が平成二十八年度税制改正要望として提案した内容によりますと、損金算入により軽減される税額をさらに拡大するとともに、東京都など財政力の高い自治体や主たる事務所が立地する自治体への寄附は対象外とするとされております。
 企業において、そもそも、いわゆるこういうふるさと納税といったものが成立するのかといったこと、また、特定の自治体への寄附を対象外とする措置は、自治体間の財政調整そのものといわざるを得ないといったこと、こういった問題があると考えております。
 こうした問題点につきましては、報告事項に挙げております東京都の主張の中でも一部指摘をさせていただいております。

〇中村委員 問題があるという認識は示していただきましたし、ご指摘もいただいているというのはわかりましたが、ぜひ、できればこういったことに対して、明確に反対ということもいっていただきたいなと思っています。
 私は、三月のこの財政委員会の中では、個人のふるさと納税についての都の認識を質問しましたが、こちらは好ましくないということはしながらも定着しつつあるということで、こちらも明確に反対をしてきませんでした。
 しかし、今のように寄附をすれば物がもらえるというような現在のあり方では、逆に寄附文化を壊しかねません。寄附金文化の醸成という本来あるべき制度の趣旨を逸脱し、あるところから財源を奪うという思想で屋上屋を重ねることは大きな問題です。
 東京で生まれる付加価値を地方に還流させる取り組みは議論されるべき問題です。しかし、単に都の税源を地方に配分するだけでは、いつまでたっても地方都市の発展にはつながりません。不合理な偏在是正措置はもちろんのことですが、こうした不合理な税制改正に対しても、都民の幅広い理解を得て、年末の税制改正に向けた世論を高めていき、国に対しても強く申し入れることを求めます。
 次に、年次財務報告書に関連して地方財政全体について伺います。

4 年次財務報告書について

〇中村委員 次に、年次財務報告書に関連して地方財政全体について伺います。
昨今の国の財政再建方針のもと、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会からは、地方公共団体がそれぞれ財政調整基金を増加させていることを捉え、地方財政には余裕があるかのような指摘があります。こうした指摘に賛同する意見もあるようですが、まずは都として、どのような見解を持たれているか伺います。

〇岩瀬主計部長 財政制度等審議会は、国が本来必要のない借金を行って地方の貯金をつくり出しているとの指摘をしておりますが、こうした指摘に対して、総務大臣の諮問機関である地方財政審議会から、地方税収等の決算額が計画額を上回っている場合に財政調整基金への積み立てを行うことは、財政運営の年度間調整の観点から当然の対応との主張がなされております。
 また、全国知事会からも同様の意見のほか、赤字国債を発行して財源対策ができる国と異なりまして、地方公共団体は、景気後退による税収減から生ずる財源不足につきましては、歳出の削減や基金の取り崩し等により収支均衡を図るほかないことを十分踏まえるべきとの反論がなされております。
 これらの意見にもありますとおり、短期的な基金の増減のみを捉えた財政制度等審議会の指摘は、地方公共団体の財政運営の本質を踏まえておらず、妥当ではないと考えております。

〇中村委員 今回発表された年次財務報告書によれば、平成二十六年度の普通会計決算の状況は、経常収支比率が八四・八%と前年より改善し、基金への積み立てを増加するなど、好調な都税収入を背景に極めて良好に見えます。このことをもって地方や国からは東京富裕論が喧伝され、さきに述べた不合理な偏在是正が正当化されるかのような風潮があります。
 そこで、今回の年次財務報告書の中で、昭和四十年代後半以降の都財政の歴史を振り返って、都の現状は決して富裕ではないことを主張していますが、その中で、特に基金に焦点を当てて説明をいただきたいと思います。

〇岩瀬主計部長 都は、不安定な財政構造の中、オイルショックやバブル経済の崩壊、リーマンショックといった大きな景気変動を経験してきましたが、そうした局面を事業の厳しい見直し、再構築や都債、基金の活用により克服し、強固な財政基盤を築き上げてまいりました。
 中でも、お話の基金につきましては、一年間で約一兆円もの減収に見舞われた平成二十一年度には、三千億円を超える活用可能な基金を取り崩すことによって、必要な行政サービスの維持を図るなど、大きな役割を果たしてございます。
 他の自治体におきましても、財政運営の年度間調整の観点から、財政調整基金の積み立ての重要性が認識されておりますが、とりわけ都におきましては、都税収入が元来不安定な構造であることに加え、地方交付税の不交付団体であることから、他の自治体以上に、より適切に基金を積み立てていく必要がございます。
 こうしたことを踏まえますと、基金の残高をもって東京には金が余っているかのように喧伝する東京富裕論は、都の現状を踏まえない意見であると、このように考えてございます。

〇中村委員 不安定な財政構造の中で、過去の教訓を踏まえて基金を積み立てていることは理解しました。
 財政調整基金への積み立てが将来の税収動向や行政需要に備えるための当然のリスク管理であることは、都も含めた地方全体がひとしく認めていることです。このことからも、都財政における基金の額をもって富裕であるとの意見が、いかに一方的であるかわかります。
 現在の基金や都債のあり方が、過去の教訓を踏まえた当然のリスク管理であることは、もっと知られてもよい事実です。知事は、年末の税制改正の議論に向けて、みずから先頭に立つとしていますが、その際に、こうした過去の経緯や都財政の現実をきちんと伝えていくべきであり、財務局には一層の情報発信を求めます。
 また、年次財務報告書は、都財政をできる限りわかりやすく伝えているという都独自の取り組みであり、平成十八年度から版を重ね、今回で九回目となります。今回の報告書では、都財政を考えるとして財政運営の歴史や将来の財政負担についてデータを用いて検証しており、年々議論が深まっているという印象は持っています。
 一方で、本報告書では、第三者の将来推計などをもとに論じている将来の財政需要は、社会保障関係経費や社会資本ストックの維持更新経費のみにとどまっており、より深く将来の財政需要について分析をするならば、二〇二〇年のオリンピック・パラリンピックに向けての新たな財政需要やオリンピック後の景気分析などについても言及が必要であったのではないかと考えます。
 普通会計決算を分析して、今後の財政運営を議論する素材として年次財務報告書が活用されることを望みたいと思いますが、今後も、都財政の課題を的確に把握するとともに、この年次財務報告書を活用しながら、都民に対して、よりわかりやすい説明を行っていくべきと考えますが、見解を伺います。

〇岩瀬主計部長 年次財務報告書は、多くの都民に、都財政をより身近なものとして理解していただくため、普通会計決算や健全化指標にとどまらず、都独自の財務諸表や都財政を考えると題する解説を掲載するなど、さまざまな工夫を凝らしながら版を重ねてまいりました。
 今回の報告書におきましては、都財政の歴史を振り返ることで、現在の健全な都財政は幾度も直面した財政危機を乗り越えて達成された結果であることを明らかにいたしました。
 また、将来の社会保障関係経費などの財政需要を踏まえますと、都財政は余裕がある状況にはないことから、財政対応力の堅持の必要性について、民間の試算などを用いて、なるべくわかりやすく説明するよう努めました。
 今後とも、本報告書に対するさまざまな意見を踏まえながら、多くの都民の皆様から都財政に対する適切なご理解をいただけるよう、さらなる工夫に努めてまいります。

〇中村委員 ありがとうございました。
 先ほども述べましたけれども、いろんな社会保障の関係費等も記載の方はありますけれども、以前、この委員会でも質問したんですけれども、例えば、長期ビジョンなどを定めたときに、全体の財政がどうなっていくかということがなかなかまだ示せていないという状況もありますので、できれば、これからの財政を考える上でも、そういったこともしっかりと数字を出していくということもあれば、都民にもっとわかりやすくなると思いますし、だんだん年々と、いろいろと進化してきていると思いますが、より一層、こういったことを、工夫を凝らしていただく中、都民にわかりやすい説明を行っていければと思っております。
 以上で質問を終わります。

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